ベトナムの米朝会談は失敗も合意もない長期戦

=日本に向けたミサイルを中止したのはトランプ効果=

 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩・労働党委員長の2回目の米朝首脳会談が平成31年(2019)2月27日と28日の2日間に亘ってベトナムのハノイで開かれた。

 すでに昨年6月のシンガポールで2人は笑顔で握手を交わし、お互いを「ほめ合った」が、私は北朝鮮は国運を賭けて命がけで「核放棄しない」とみていたから、1回目のシンガポール会談でも次の2回目のハワイ会談でも、「失敗はないとしても合意もない」と説明した。

 マスコミ陣は「トランプと正恩会談」に首ったけになっている。この判断は甘ちゃんだ。

 朝日は社説で「ベトナムで開かれた2回目の米朝首脳会談は事実上、決裂して終わった。あれほど楽観していたトランプ大統領の言葉は何だったのか。空しさが漂おう」(3.1)

 2回だけの会談で「空しさが漂う」という朝日社説も甘ちゃんだ。

 決裂の主な原因は北朝鮮の一部の核施設だけ廃棄して他を隠していること。一方で北朝鮮は全面的に経済制裁の解除を求めるという虫のいい条件にトランプはのめなかった──。私はそれはそれで正しい選択だった、と思う。

 正恩はリビアのガダフィ政権が彼を放棄した瞬間、欧米の支援を得た反体制派に倒された教訓を忘れてはいない。

 私は米朝会談の決裂を喜んでいるわけではない。米朝関係が60年間も空白だったことから、「世紀の世界平和の一里塚」として期待しているが、「独裁国家」と「民主国家」では一筋縄ではいかない壁になる要因が多すぎる。

 例えば原発などを利用する非核国はNPT(核不拡散条約)に加盟し、IAEA(国際原子力機関)に核物質の量や施設などを申告して査察を受けなければならない。

 しかし、北朝鮮は平成10年(1998)、NPTから脱退して、すでに核兵器を保有する。当時は人工衛星の実験とっいって騙(だま)してきた。

 従って、米朝が「核・ミサイルのzん面禁止」を決めても、過去に決めた6カ国(日中韓米露朝)協議の中に北朝鮮を再加入させて相互監視しなければ、NPTは有効な国際法律の縛(しば)りとはならない。難しいことだが中露の協力が必要となる。

 世界の核保有国は米露中英仏印、さらにパキスタン、イスラエル(?)あたりの8カ国とみられるが、北朝鮮の正恩は、あわよくば、米朝外交のどさくさまぎれに、9カ国目の核保有国をめざしていりのではないか?

日本からみれば「トランプにノーベル賞を」は悪い話ではない

 ところでトランプ流の米朝首脳同志の外交に日米のマスコミから批判が上がっている。

 本来なら米朝の事務レベル交渉の積み重ねが必要だが、トランプは次の大統領選を控えて点数かせぎのあせりがあった、というのが専らだ。

 だからといって今の米政権ではトランプ以外、独裁者の正恩を止めるだけの役者はいない。

 仮に中露にそれを求めるにしては北朝鮮は三角関係か愛人関係にあり、核とミサイルを止めようとするような地球勢力はない。

 一昨年まであれだけ北朝鮮のミサイルに脅かされ続けてきた日本列島は、シンガポールの米朝会談を前にミサイル発射は中止された。それだけでも日本にとってはトランプ効果は大。

 「トランプにノーベル平和賞を」といった声も出たが、日本からみれば、あながち悪い話ではない。日本消滅の最悪のケースを考えない日本人は笑うであろうが、これは笑える話ではない。

 ヨーロッパの大国の英仏独にしても、北朝鮮の横暴を止めるような軍事力はさらさらない。ヨーロッパ、中東の政治混乱で英仏独はアジアに目を向ける余裕はない。だから、正恩がアジアで暴れやすくなり一人舞台。

 いつも私はマンガのようなことで例えて言うが、この地球上以外に正義の月光仮面や鉄腕アトムのような者がいれば、地球を制圧するであろうが、この地球上ではそんな者は存在しない。

 この地球上は正義の名の下に「国家権力」のシーソーゲーム。その実体は表も裏も悪魔ばかりで、その時代に権力を握った者に世界は翻弄(ほんろう)され振りまわされている。

 特に日本人は島国育ちの純粋な民族なので、日本政治と国際政治の違いを日本の若者は知ってほしい。

 その例は私は次の論文①マレーシアで金正恩による異母兄の殺人②サウジアラビア皇太子によるサウジ人ジャーナリストの殺人──に参照される。

正義が通らず「悪魔の手先」にのまれる国際政治

 私は敗戦時(S・20・8・15)、2歳だから戦後の悲惨さは全く知らない。そうした中でジャーナリストとして約半世紀生きてきたが、強烈に思うことは「政治が全て正義では動かない」ということです。

 政治は時の「権力」によってブランコのように左右され、国際政治は大国が「悪魔の手」で権力をもてあそぶシーソーゲームをしている。

 直近のことで申し上げると、今、アジアで、いや、世界で注目の「トランプと金正恩の間で核・ミサイル戦争がぼっ発するかどうか」という時──北朝鮮の正恩の異母兄(金正男氏)がマレーシアの空港で顔に毒を塗られて死亡(H29年2月)

 主犯の北朝鮮政府要人3人は国外逃亡。共謀した2人の女性の1人のインドネシア人は、今年3月15日釈放。同じ罪状のベトナム人は今も拘留が続く。(3月25日現在)

 マレーシア政府は正恩が手引きしたと思われる北朝鮮へ逃亡した3人組については、その後、ほとんど言及していない!

 そうした北朝鮮の正恩が政権について以来、国民の60~70人が処刑されたと言われても「トランプと正恩の巨頭会談」は堂々と地球世界の話題をさらって正義の月光仮面のように扱われている。

 ケチな注文をすれば、朝日新聞だって、そこでは歴史を空(から)にして触れない。

 時を同じくして平成の30年10月、在米のサウジアラビア人記者がトルコのサウジ総領事館内で殺害された。

 その主犯はサウジの皇太子とされているが、同大使館内で20人がかりでサウジのジャーナリストを殺し、そのうち5人を死刑との外電が伝えたが‥‥ホントウなのかどうか。

 この時、トルコ政府の首相も真犯人をつきとめていく──と大言壮語していたものの、その後、この事件はパッタリと消えて現在に至る。

 こうこうしているうち、主犯のサウジ皇太子は世界のひのき舞台に堂々と登場。また、1か月前にはヨーロッパでサウジ皇太子と中国の習国家主席が仲良く握手の記念写真。サウジ皇太子は、いつの間にか白?正義?

 産油大国サウジに米中とも忖度して、トランプも習も「騙し外交」で済ませている。これが世界の外交の実態であることを日本人は知るべし!

 大国は「平和」そ叫びながら、いつ狼か悪魔になるか、わからない。私は大国のアメリカだけを指しているわけではない。産油大国・世界一のサウジ皇太子にしても、世界一の独裁国・北朝鮮にしても同様。中国も地球を一国占めにしようというクエスチョンマーク付き国家。

失った羊土は永久に戻らない!

 そこから沖縄問題 に高飛びするが、辺野古への飛行場移設に沖縄県民は大反対しているが、もし沖縄から日本の自衛隊が去って地政学上で空白にしてしまうと、どうなるのか。

 沖縄の軍事基地は全国の70%以上を占めることに同情する。日本列島がハワイに引っ越すことはできず、アジアの政治力学上、沖縄が本土の犠牲になっているのも分る。しかし、アジアでは常時、悪魔の手は出没する。

 中国は尖閣列島を狙ったあとは沖縄もいただく、主張を続けている。その理由は「大陸棚は中国のもの」と政府関係者は公言する。

 上記の件では橋下徹氏(元大阪府知事)は、中国が本気で「沖縄取り」に走ったら、沖縄人も本土の日本人も目が覚める──と。私も同感だ。

 日本人は沖縄を含めて、そういうことはないだろう、と高をくくっているから、沖縄はいつも平和だと思っている。それは日本人の願望だけだ。

 北方領土に見られるように「一度失った領土は永久に戻らない」──。それを安倍首相は25回以上もプーチン大統領と会い北方領土返還外交をしているが、国政選挙のたびに「人気とりもどき」を演出しているにすぎない。

 ロシア政府は、すでに北方領土で軍事基地化して、日米の分け入る余地はない。

 ロシア政府は、北方領土の占領は戦争に勝った上での「戦利品」とみており、北方領土の奪還は戦争以外にない。それが出来ないから、日本は経済戦略で北方領土を利用するしか方法はない、とみる。

 色丹、歯舞の2島変換すら難しい。北方領土の国後(くなしり)+択捉(えとろふ)の領土は93%を占める。色丹プラス歯舞で7%でしかない。その7%であってもロシアは頑として譲らない。

 敗戦後、70年以上たっても、まだ「北方領土を返せ」では能がない。日本は経済産業を生かして北方領土でウインウインの関係を作るしか方法はない。

 北方領土の向こう岸は米国領土のアラスカである。この地政学でみる限り、ロシアは北方領土を「軍事基地」として固定化されている。

 「平成」は終わり、新時代がスタートする。政府、財界、マスコミも考え直す時代である。

平成31年(2019)3月25日
村井 実