日本政治は東京の山手循環線

=その心は同じ円を回って進歩なし=

 最近の国会をみると、麻生財務相兼金融相に対する不信任決議案と問責決議案が衆参院で自民、l孔明、維新などの反対多数で否決(6月21日)された。

 野党が麻生財務相を吊るしあげたのは、老後の生活費が2千万不足した金融庁の審議会報告書の受取りを拒否したからだ。

 目前に参院選が迫っており、国民がいちばん関心高い生活費・年金をつつかれたから、安倍政権に不利に働くということで同報告書をなかったことにした。この瞬間、衆参同時選庵は消えた。

 そのあと、同24日には首相問責決議案、25日には内閣不信任案が国会に提出されるだろうが、今の自公の圧倒的多数の国会の議席の前では野党は風前の灯で「否決」される。それよりも野党は問責決議案、不信任案を出して衆院解散でもされたらどうしよう──とあわてふためいた景色は笑っちゃう。「家政婦は見ていなかった」かもしれないが、有権者は見ていた。

 間もなくやってくる7月参院選の前で、野党は自民党に対して「かく戦った」という国民有権者向けの実績作りを見せたい茶番劇。国民はこの永田町芝居にあきあきしている。

 私の主張のような野党批判をするマスコミは少ないかもしれないが、橋下徹・元大阪市長は彼の自書「政権奪取論」(朝日新書、890円)の中で、私と同じような意見を述べている。

 圧倒的自民議席の前での問責決議案や内閣不信任案の提出は形式的であり、時間かせぎ、選挙前の人気とり程度にしかみられない。見出しのタイトル、東京の山手線よろしく、進歩なしだ。1日の国会会費は3億円也だ。

 本来であれば、今の日本の現状では、国民の求める「年金問題」を国会討論の中心にして欲しいところだが、圧倒的多数の議席を持つ自公は野党も国民もバカにして「国会議事堂不要論」を叫んでいるに等しい。私は以前から大声をあげているが、国民からみれば与野党とも全く「税金ドロボー」である。

 私が現役の国会記者時代、国会閉会日に三木武夫首相が衆参本会議場で、「禁足令」をかけて、時計を翌日の真夜中、午前2時でも前日の12時という魔法の時刻に止めて、塩・タバコの値上げ法案を通したことが、今となっては懐かしい。

 この背景には、自民党の三木内閣の地盤が弱く、与野党が拮抗していた緊迫した中で、法案を通そうとしたから「禁足令」まで飛び出したのである。

 ◇野党の弱さが日本政治の劣化を招く

 そこで頭ごなしに野党に苦言を申し上げるが、自民党批判の前に、野党の弱さこそが、今日の日本政治の根本的な問題と指摘したい。

 森友・加計問題で安倍政権は「適切に対応した」は13%、「対応していない」は75%、という世論調査(朝日)が出ている。こんなことは小学生まで政治、政治家を信用していない。テレビ時代だから。

 シビリアン・コントロール(文民統制)にしても、参院の定数6増も政権転落しない──という自民の驕りから出ている。

 こうした劣化した永田町政治だから、優秀な霞が関の官僚群は平気でウソをつき、国民を騙すのもなれっこになっている。

 なぜ、こういう現象が起きるのかというと、安倍内閣の下、日本政治は政権交代はあり得ないから、官僚は今の野党に忖度したり、おべっかいを使う必要性がない。従って公務員であることを忘れて、自分の出世街道を歩むのが得策となる。

 最近の厚生労働省に関する統計問題のデタラメぶりも、政権交代のないことに、ふんぞり返って役人のダラカンぶりは目に余る。国民にとってころほど不幸なことはない。

 なぜ、野党の存在価値なく、国民から見放されたかというと、
①中選挙区制から小選挙区制の導入、
②党公認が官邸主導で首相の意のまま、
③今さら共産・社会主義に国民は寄りつかない。むしろ若者は自民寄り、
④野党がいつまでも連合の愛人になっていては政権は取れない、
⑤日本人は土着思想だから、組合・労組になじまず、保守が地盤とする自治体活動、祭、町村の行事に日常参加しなければ自民を倒せない。

 一方、自民党の権力争いもあるが、それ以上に各野党間での「国の政党助成金」(約360億円)の奪い合いは表に出ないが、ドロドロとした代理戦争をしている。

 だから、選挙後の空白期に野党連合をやらなければならないのに、その野党連合は全く進まず、まさに学芸会か児童会。やる気なし。安倍政権以来、野党は「俺が、俺が」のお山の大将争い。野党では小沢(一郎)以外に、まとめられる人材はいないのに‥‥‥無駄な抵抗に私は、いつもウンザリして外野席から眺めている。

 田中角栄首相は私に当時、言ったものだ。

「民主主義は数だ。多数決を取れない政党は、野党に転落する。野党になれば、たとえ予算の1円だて動かせない。」

 右の名言を今の野党にプレゼントしたい。

◇ふがいない野党を諦め自民党を割って2大政党に!

 選挙直前になって野党は「にわか合流」をして選挙戦に突入してくるが、にわか合流は「にわか政策」であることを国民は見破っている。

 各野党が一致点を見い出して、どんな国家にするのか、どんな社会を作りたいのか。立憲民主党、国民民主党、共産党などに、オーソドックスな日本の将来の骨格が見えてこない。

 自民も同じようなものだが、自民はまだ党としてまとまる一体感がある。野党はバラバラだから、有権者もパラパラとなる?!

 だから、この世論調査でも「自民党しかないから」とか「期待できる野党がない、」などの意見が上位を占め、国民の目は辛辣(しんらつ)である。

 参院選直前のこの期(機)に及んでも、世調では自民40%をトップに、立憲民主、国民民主、公明、共産、維新、など、どれもこれも1桁台というおそまつ君!

 これでは参院選であっても総選挙であっても野党は勝てない。政権交代なんて夢の夢──。

 となれば、日本が政権交代できる環境は今の自民党を割って2大政党にするのが現実的だ、という声も出はじめている。私も今の野党のテイタラクを見てると、自民の大分割による2大政党に大賛成である。死ぬまでに、もう一度2大政党の夢をみたい。

 そこで文中の「政権奪取論」でも橋下徹君が述べていることだが、アメリカのように日本の野党も予備選をやって、はい上がってきた者を統一野党の政策にそれほど違いはないのだから……。

◇厳しい世界情勢の中、日本風船はどこへ飛んでいく

 日本国内では、重箱の隅をつついたような森友、加計、厚生労働省の不正統計など、チマチマした県政レベルの政局に明け暮れた安倍政治。肝心の国債(1100兆円)や年金のような大問題を飛ばして、何が国政なのか。

 国外では、トランプ、プーチン、習近平、金正恩……そしてイラン対米国戦の予兆。北朝鮮と米国の行方。ここでは日本外交はさっぱり見えてこない。

 昭和40年代~同50年代は自社時代で、社会党が大あばれして国会論戦は外交が華だった。そうした国会の活気ある原風景を取材してきた私としては、日本がこれほどきつい世界情勢にさらされている中、日本という風船はどこへ飛んでいくのか。与野党とも、その羅針盤となる政治家がいない。討論もない。

 今風の政治家は、カネと利権を追って自分だけ生きて残ればよい、という議員が多すぎる。

 この原稿の終わるころになって、横浜から中年男性の声が入った。

 「今の日本は享楽ばかりに走り、爺さん婆さんたちはゴルフにカラオケばかり。それも老後のひとつの楽しみだろうが、老人は人生経験も豊富だ。今の若者に夢を持たせるような会話や教育を与えてほしい。老人の知恵も必要な時代なのです。」

令和元年(2019)6月24日
村井 実